プライスアクションEAをバックテスト
EAラボ第2弾は、マーチンゲールとは正反対のタイプ。 Price Action Intraday Trading - Expert for MT5(作者 l2carbon、Code Base 閲覧1.4万・評価5.0)を、コードを改変せず本物のままMT5で検証します。
第1弾のマーチンが「高勝率だが破綻する」型だったのに対し、これは低勝率で伸ばす(2:1 RR)トレンドフォロー型。 ピンバー・包み足・インサイドバーというプライスアクションのパターンを、EMAトレンドフィルタで絞って売買します。 「パターンに予測力があるか」を正面から検証すると、答えは第1弾と同じでした。
なぜこのEAか。 第1弾(マーチン)とアーキタイプを変え、「プライスアクションのパターンにエッジはあるか」という retail で巨大な信仰を検証したかったため。本EAは Code Base で閲覧1.4万・評価5.0(12件)と、実際に使われている代表例です。
対象EAの構造
- 入場(パターン): ピンバー(否定)・包み足(勢い)・インサイドバー(ブレイク)を検出し、EMA20/50のトレンド方向とS/Rで絞って成行
- 損益(固定2:1 RR): 損切り40pips、利確80pips(
TakeProfitRatio=2.0)、1.5%リスク、セッション時間、建値移動・トレーリング。マーチンではない
ここで決定的なのが、利確80 : 損切り40 = 2:1 という固定リスクリワードです。 相場が完全な公平コイン(ドリフト0)だと仮定すると、勝つ確率は数学的に決まります。
つまりエッジがゼロなら、この構造の勝率は33.3%が損益分岐。高勝率マーチンの逆で、「勝率は低いが伸ばす」型のフェアな基準線です。
そしてこのEAも、銘柄も時間軸もコード上では指定していません(PERIOD_CURRENT/_Symbol、pip系設定はすべて固定)。
ただし作者は明確に推奨しています。
選択した銘柄のボラティリティに応じて、StopLossPips と PinBarRatio を最適化することをお勧めします。
したがって本検証は、この「最適化して使う」前提を正面からテストします。
方法
- 本物の
.mq5を MetaTrader 5 のストラテジーテスターで実走(XM、モデルは1分足OHLCで統一、再現性のため) - 期間 2021–2026、レバレッジ 1:1000、フォレックスは JPY・ゴールドは USD 建て(ゴールドはJPY口座だとロット計算が破綻するため)
- 「最適化して使え」を検証するため、作者が名指しした StopLossPips × PinBarRatio をグリッド化し、イン・サンプル(2021–2023)で最適化 → アウト・オブ・サンプル(2024–2026)で検証
- 「パターンが方向を当てているか」を切り分けるため、同じトリガーで方向だけコインフリップにした対照EAも実走
検証の範囲(と、見ていない範囲): 最適化したのは作者が名指しした StopLossPips(5値)× PinBarRatio(3値)のみ。TakeProfitRatio(2:1固定)、パターン閾値、トレーリング幅、他の通貨ペア、M15/H1/H4以外の時間軸は振っていない。RR比まで最適化を広げれば、イン・サンプルの見かけ上の利益はさらに増やせるが、それは過剰適合の余地が増えるだけで、勝率が2:1の損益分岐に張り付く性質は変わらない。
数字はすべて、本物のEAの実走結果です。
結果1:勝率は「機械的な33%」に張り付く
まず勝率を疑います。 下は、全時間軸・全銘柄・全パラメータ設定の勝率をプロットしたもの。

実データ(XM・1分足OHLC)。M15/H1/H4、USD/JPY・ゴールド、SL×PinBarRatioの全設定。勝率はすべて26〜37%=公平コインの33.3%付近に張り付く。
どの設定でも勝率は33%前後。 パターン(ピンバー・包み足・インサイドバー)は、ランダム入場と同じ頻度でしかTPに届いていません。 実際、作者推奨のH4で「同トリガー・方向ランダム」の帰無分布を回すと、原著の成績は25本中2本に負け(片側 p=0.08)、showcaseですらランダムと統計的に区別がつきません。
結果2:「最適化して使え」はアウトオブサンプルで崩壊する
作者の推奨どおり、StopLossPips × PinBarRatio をイン・サンプル(2021–2023)で最適化し、その設定をアウト・オブ・サンプル(2024–2026)で検証します。

実データ(XM・USD/JPY・M15/H1/H4)。各点が1つの(SL × PinBarRatio)設定。エッジがあれば「IS+ → OOS+」(右上)に並ぶはずが、実際は「IS+ → OOS−」(右下)=過剰適合。
| 時間軸 | IS最良設定 | IS | アウトオブサンプル | OOSでプラス |
|---|---|---|---|---|
| M15 | SL40/PBR1.5 | +71.8% | −48.6% | 0/15 |
| H1 | SL40/PBR2.0 | +38.4% | −25.7% | 0/15 |
| H4 | SL40/PBR1.5 | +54.0% | −7.4% | 7/15 |
- 3つの推奨時間軸すべてで、イン・サンプル最良の設定がOOSで崩壊(M15 −49%、H1 −26%、H4 −7%)
- M15・H1では、15設定中OOSでプラスがゼロ。H4だけ7/15がわずかにプラスだが、これはUSD/JPY上昇トレンドの残り香で、IS最良ですらOOSで負ける
- 散布図の点は「IS+ → OOS−」の右下に集まる。イン・サンプルの見かけの利益は、実運用(OOS)で消える
=作者の言う「銘柄ボラに合わせて最適化」は、カーブフィッティング。 どの設定が良かったかは相場が事後的に決めるだけで、将来を当てる力はありません。
全グリッド結果(省略なし)
要約ではなく、回した全設定をそのまま載せます。StopLossPips × PinBarRatio の全組み合わせ、IS/OOS のリターンと勝率です。
USD/JPY M15(全15設定)
| StopLossPips | PinBarRatio | IS リターン | IS 勝率 | OOS リターン | OOS 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20 | 1.5 | -7.3% | 29.1% | -75.4% | 26.3% |
| 20 | 2.0 | -40.6% | 28.1% | -67.6% | 26.5% |
| 20 | 3.0 | -27.0% | 28.7% | -66.7% | 26.0% |
| 40 | 1.5 | +71.8% | 34.5% | -48.6% | 29.7% |
| 40 | 2.0 | +6.5% | 33.9% | -49.7% | 29.8% |
| 40 | 3.0 | +5.7% | 33.6% | -54.2% | 28.8% |
| 60 | 1.5 | +32.8% | 34.7% | -28.9% | 29.9% |
| 60 | 2.0 | +3.8% | 33.7% | -34.8% | 30.0% |
| 60 | 3.0 | +16.0% | 34.3% | -34.9% | 29.2% |
| 80 | 1.5 | +27.9% | 34.7% | -20.5% | 29.9% |
| 80 | 2.0 | +6.0% | 33.7% | -25.9% | 30.1% |
| 80 | 3.0 | +14.9% | 34.3% | -26.2% | 29.2% |
| 100 | 1.5 | +22.4% | 34.7% | -14.5% | 30.0% |
| 100 | 2.0 | +5.6% | 33.7% | -20.1% | 30.1% |
| 100 | 3.0 | +13.0% | 34.3% | -20.3% | 29.4% |
USD/JPY H1(全15設定)
| StopLossPips | PinBarRatio | IS リターン | IS 勝率 | OOS リターン | OOS 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20 | 1.5 | -59.6% | 28.4% | -83.5% | 27.6% |
| 20 | 2.0 | -19.2% | 30.0% | -69.5% | 28.3% |
| 20 | 3.0 | +5.5% | 31.0% | -65.0% | 27.2% |
| 40 | 1.5 | -2.6% | 32.1% | -43.3% | 31.6% |
| 40 | 2.0 | +38.4% | 33.9% | -25.7% | 32.1% |
| 40 | 3.0 | +34.0% | 34.9% | -12.1% | 32.0% |
| 60 | 1.5 | -3.1% | 32.1% | -25.6% | 31.7% |
| 60 | 2.0 | +19.4% | 34.0% | -12.7% | 32.1% |
| 60 | 3.0 | +13.1% | 34.7% | -7.8% | 31.9% |
| 80 | 1.5 | +0.8% | 32.1% | -19.7% | 31.8% |
| 80 | 2.0 | +16.1% | 34.0% | -10.2% | 32.2% |
| 80 | 3.0 | +11.0% | 34.7% | -6.6% | 32.0% |
| 100 | 1.5 | +2.0% | 32.1% | -16.6% | 31.8% |
| 100 | 2.0 | +13.6% | 34.0% | -8.2% | 32.2% |
| 100 | 3.0 | +10.1% | 34.7% | -5.4% | 32.0% |
USD/JPY H4(全15設定)
| StopLossPips | PinBarRatio | IS リターン | IS 勝率 | OOS リターン | OOS 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20 | 1.5 | +10.3% | 31.2% | -36.1% | 28.5% |
| 20 | 2.0 | -4.3% | 30.4% | -40.9% | 27.1% |
| 20 | 3.0 | +0.2% | 31.2% | -10.6% | 29.6% |
| 40 | 1.5 | +54.0% | 35.5% | -7.4% | 33.1% |
| 40 | 2.0 | +47.4% | 34.9% | -10.9% | 32.8% |
| 40 | 3.0 | +24.0% | 35.8% | +1.1% | 34.6% |
| 60 | 1.5 | +36.3% | 35.2% | +2.9% | 33.9% |
| 60 | 2.0 | +30.1% | 34.6% | -3.7% | 32.9% |
| 60 | 3.0 | +16.0% | 35.8% | +9.6% | 35.6% |
| 80 | 1.5 | +30.7% | 35.2% | +3.0% | 33.9% |
| 80 | 2.0 | +26.1% | 34.6% | -1.9% | 32.9% |
| 80 | 3.0 | +15.2% | 35.8% | +7.3% | 35.6% |
| 100 | 1.5 | +25.6% | 35.2% | +2.7% | 33.9% |
| 100 | 2.0 | +22.1% | 34.6% | -1.2% | 32.9% |
| 100 | 3.0 | +13.5% | 35.8% | +5.6% | 35.6% |
M15とH1では、IS最良のみならず全15設定がOOSでマイナス。H4はSL60〜100・PinBarRatio3.0の数設定だけOOSプラスだが、いずれも勝率33〜35%で、後述のとおりUSD/JPY上昇トレンドの範囲内です。
結果3:ゴールドの「好成績」は、2024–2026の上昇トレンド
コメントには「XAUUSDで好成績」との声があります。 ゴールドはボラが桁違い(1本の値幅が17)なので、pip系設定をボラに合わせてスケールし、同じIS/OOS最適化を回しました。
| イン・サンプル(2021–2023) | アウトオブサンプル(2024–2026) | |
|---|---|---|
| 全12設定の平均 | −14.7% | +12.1% |
| OOSでプラス | — | 10/12 |
| IS-OOS相関 | — | +0.09(ほぼゼロ) |
全12設定の結果(省略なし):
| StopLossPips | PinBarRatio | IS リターン | IS 勝率 | OOS リターン | OOS 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 800 | 1.5 | -13.3% | 31.9% | +34.7% | 33.1% |
| 800 | 2.0 | -20.3% | 25.6% | +20.7% | 32.3% |
| 800 | 3.0 | -26.6% | 27.7% | +7.3% | 30.2% |
| 1600 | 1.5 | -12.2% | 37.0% | +24.7% | 32.6% |
| 1600 | 2.0 | -20.0% | 33.8% | +14.2% | 31.9% |
| 1600 | 3.0 | -21.6% | 28.6% | -0.1% | 30.9% |
| 2500 | 1.5 | -11.1% | 37.0% | +12.4% | 31.2% |
| 2500 | 2.0 | -12.7% | 36.7% | +6.3% | 30.8% |
| 2500 | 3.0 | -13.8% | 32.2% | -1.8% | 30.4% |
| 4000 | 1.5 | -8.4% | 36.5% | +4.6% | 31.7% |
| 4000 | 2.0 | -7.5% | 37.3% | +12.0% | 33.2% |
| 4000 | 3.0 | -8.7% | 33.5% | +9.7% | 33.2% |
一見、OOS(2024–2026)は好成績です。 しかしこれは「ゴールドで効く」のではありません。2024–2026にゴールドが暴騰しただけです。 根拠は3つ。
- イン・サンプル(2021–2023、レンジ気味)は全設定マイナス。パターンにエッジがあれば、ISで全負けにはならない
- IS-OOS相関がほぼゼロ。どのパラメータを選んでも将来は予測できない=結果を決めているのはパラメータでなく相場
- 勝率はやはり33%付近。OOSの利益は「上昇トレンドでトレーリングが伸びた」ぶんで、勝率由来ではない
期間の割り方を逆にすれば、符号も逆転する。 ゴールドの3000超という歴史的上昇に、EMAフィルタで乗っただけです。 コメントの「好成績」は、おそらく2024–2026という強気相場での話でした。
結論:パターンは方向を当てていない
- 勝率は2:1 RRの損益分岐33%に張り付く(機械的、公平コインと同じ)
- 作者推奨どおり最適化しても、3つの推奨時間軸すべてでアウトオブサンプルが崩壊(過剰適合)
- ゴールドの好成績は、パラメータの手柄ではなく2024–2026の上昇トレンド(IS全負け・相関ゼロ・勝率33%)
第1弾のマーチンとは真逆の「低勝率・伸ばす」型でしたが、結論は同じです。 見えた「勝ち」は、フォレックスもゴールドもトレンドに乗っていただけ。 そして「都合のいいトレンドが来る銘柄・期間・時間軸を事前に選ぶ」ことこそがエッジであり、それはEAの中にもパターンの中にもありません。
ピンバーも包み足も、それ自体は未来を教えない。「最適化すれば勝てる」は、過去に最も当てはまる設定を後から選ぶこと、すなわちカーブフィッティングだった。
これは 4指標横断のメタ検証 と 検証の方法論(イン/アウトオブサンプル分割)の、プライスアクションEAによる実証です。 「バックテストが良く見える」ことは、エッジがあることを意味しません。
再現方法
- MQL5 Code Base #68704 からEAを入手し、MetaTrader 5 でコンパイル
- ストラテジーテスターで モデルは1分足OHLC、期間を2021–2023(IS)と2024–2026(OOS)に分ける
- StopLossPips と PinBarRatio を IS で最適化 → その設定を OOS で実走 → 崩れることを確認
- M15・H1・H4、USD/JPY・ゴールドで繰り返す
参考
- Price Action Intraday Trading - Expert for MT5(MQL5 Code Base、作者 l2carbon、無料)
- 関連:無料マーチンゲールEAをバックテスト、指標のメタ検証、検証の方法論