自動売買
自動売買(EA / アルゴ / システムトレード / コピートレード)を「夢の不労所得」として語ると、必ず現実を見失います。 このセクションは、自動売買をプラットフォーム(MT4 / MT5 / cTrader / Python)の技術問題、戦略型別(グリッド / マーチン / DCA / HFT / 裁定)の期待値と破綻確率の数学問題、商用 EA 販売とコピートレードの業界問題という 3 層に分けて分析します。 EA の購入検討、自作 EA の設計、コピートレードのフォロー判断、そして「月利 X パーセント」広告の真贋判定の入口として使ってください。 前提として、ブローカーの構造分析と、コストの現実の期待値分析を置きます。
姿勢
このセクションは「勝てる EA」を紹介しません。
理由は 3 つあります。
- 公開された「勝てる EA」は既に arbitrage され尽くしているか、「勝てているように見せる」会計・統計トリック(マーチン隠し、cherry-picked history、demo と live の差)を使っています。真に勝てるものが 99 ドルの商品として売られる合理的な動機は存在しません。
- 短期の成績は戦略の質と分離できません。3 か月連続プラスの EA でも、それが期待値ゆえかリスク引き受けの偶然かは、Sharpe と drawdown 分布の統計判定なしには決められません。実データ検証は検証の方法論と同じ FDR フレームでしか意味を持ちません。
- 「良い EA」は運用者と資本規模で決まります。10 万円で回すのに向く戦略と 1,000 万円で回すのに向く戦略は違います。ランキングは基準の異なる商品を無理に一直線に並べる暴力です。
したがって、このセクションは次を原則にします。
- 技術と戦略を分ける。MT5 が動く、Python API が動く、VPS が動くというインフラ問題と、その上に載る戦略の期待値は独立した問題です。分けて評価します。
- 戦略型別に「その戦略が破綻するまでの期待寿命」を数式化する。マーチンゲール、グリッド、DCA は「ほぼ勝ち続ける、たまに全損」のプロファイルを持ちます。Profit Factor や勝率だけを見て評価しないための定量枠組みを置きます。
- 商用 EA とコピートレードの業界を構造として理解する。誰が誰にいくら払っているか(販売業者、ブローカー kickback、IB 報酬、VPS 手数料)を追い、「フォロワー」の期待値を業界フローから逆算します。
- 検証セクション・コストの現実と整合させる。テクニカル指標に統計的 edge がないことは、本ナレッジベースが実証済みです(指標のメタ検証)。指標を組み合わせただけの EA は当然に edge を持ちません。EA が edge を主張するなら、その根拠は指標配置以外にある必要があります。
「月利 10 パーセント」「勝率 90 パーセント」「10 年連勝」「資金 10 万円から億り人」。このどれも、それ単独では採用しません。
進め方
自動売買の評価は、次の順序で行います。
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インフラ層の識別 プラットフォーム(MT4 / MT5 / cTrader / TradingView + webhook / Python + broker API)、実行環境(自 PC / VPS / クラウド)、ブローカー API 種別を特定します。プラットフォーム間で「同じロジック」と称する EA が別プラットフォームで挙動を変える理由の 90 パーセントは、ティック取得方式、スリッページモデル、注文タイプの差にあります。
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戦略型別の期待値プロファイル 採用戦略が 順張り / 逆張り / レンジ回帰 / グリッド / マーチンゲール / DCA / スキャル / スワップアービ / 統計裁定 / HFT のどれに属するかを分類します。各戦略型は「勝率高、期待値小、テールリスク大」か「勝率低、期待値大、drawdown 大」のどちらかに寄ります。分類が済むまで Sharpe を語りません。
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バックテストの妥当性検証 In-Sample と Out-of-Sample の分割、Walk-Forward、モンテカルロシミュレーション、ティックデータ品質、スプレッドとスリッページの実測値との整合性を確認します。テスト期間の相場環境(トレンド / レンジ / 高ボラ / 低ボラ)の分布が本番想定と一致するかも見ます。
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Forward Test / Demo 検証 バックテストと同じ戦略を demo 口座で 1〜3 か月動かし、実際のスプレッド、スリッページ、約定タイミングの下でバックテスト結果と比べます。多くの EA はここで期待値が消失します。demo と実口座でスプレッド帯や約定スピードが違うため、demo 好調でも実口座で破綻することがあります。
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商用 EA / コピー signal の統計評価 公開パフォーマンスがある場合、track record の長さ、drawdown と return の比(Sharpe / Sortino / Calmar)、勝率と R:R のバランス、口座履歴の連続性、bad ticks や cherry-picking の痕跡を検査します。3 か月未満の実績は原則として採用しません。
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業界フローの推定 EA 販売者、signal provider、ブローカーの間の kickback 構造、IB プログラム、affiliate 報酬、有料 signal の provider 側収益モデルを推定します。フォロワー側の期待値は、業界フローで抜かれるコストを差し引いた後で判定します。
ノート一覧
| # | ノート | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | プラットフォームと API | MT4 / MT5 / cTrader / TradingView + webhook / Python(MetaTrader5 / OANDA v20 / IB / cTrader Open API)、backtrader / vectorbt / zipline、VPS 選定、レイテンシ実測、Walk-Forward 設計、Overfitting mitigation |
| 2 | 戦略ファミリー | 戦略型別の期待値と破綻確率の数学。グリッド、マーチン(幾何級数)、DCA、スキャル、HFT、スワップアービ、統計裁定(ペア / triangular)、ニュース bot |
| 3 | 商用 EA 市場 | 商用 EA 業界構造。GogoJungle / MQL5 Market / MyfxBook / FX-ON / Signal Start の販売モデル、生存者バイアス、Profit Factor のカラクリ、販売業者収益推定 |
| 4 | ミラー・コピートレード | ミラー / コピートレード業界。ZuluTrade / eToro(Copy Portfolios)/ MyForexBook Autotrade / 国内(トライオート / みんなのシストレ / シストレ24)、フォロワーの長期収支、kickback 構造 |
業界史(メモ)
自動売買市場の主要イベントを時系列で置きます。個別ノートで参照する共通タイムラインです。
| 年 | 出来事 | 影響 |
|---|---|---|
| 2005 | MetaTrader 4 リリース(MetaQuotes) | 個人向け EA プラットフォームの事実上の標準に |
| 2007 | ZuluTrade 設立(ギリシャ) | 世界初の大規模 signal / copy trade プラットフォーム |
| 2007 | eToro 設立(イスラエル) | ソーシャルトレーディングの先駆(2010 年に「OpenBook」発表) |
| 2009 | MyfxBook 設立 | EA・トレーダー成績の第三者検証プラットフォーム |
| 2010 | MetaTrader 5 リリース + MQL5 Market | MT5 統合の EA マーケットプレイス |
| 2011 | 金融庁 個人向け FX レバレッジ 25 倍規制施行 | 高レバ前提のマーチン EA が国内で困難に |
| 2013 | インヴァスト証券「トライオート FX」開始 | 国内リテール向け自動売買サービスの本格化 |
| 2015-01 | SNB ショック(EUR/CHF が 30 分で -30 パーセント) | グリッド / マーチン系 EA が全域で口座破綻 |
| 2016 | GogoJungle「fx-on」継承・EA 販売継続 | 国内 EA 販売の中心プラットフォームに |
| 2018 | ESMA の CFD 個人レバ規制(30:1) | 欧州 signal / copy 業者の顧客層が縮小 |
| 2019 | US CFTC が特定 signal 業者を訴追 | 米国の copy trade 規制が事実上禁止水準に |
| 2020 | コロナ相場・高ボラ環境 | ボラ拡大局面でグリッド系 EA が短期好調、反転で破綻 |
| 2022 | 米日金利差拡大、円安加速 | スワップ狙い・キャリー型 EA が復活 |
| 2024 | 生成 AI ブーム | 「AI トレーダー」と称する signal / EA が大量出現 |
明示的に扱わないもの
- 個別商用 EA の「おすすめ度」ランキング
- Twitter / YouTube / ブログでの「月利 X パーセント」系広告の要約
- 特定 signal provider の推奨・非推奨
- 生成 AI で作った「AI 自動売買」系商材の個別評価
- MLM や高額塾とのセット売り EA(自動売買を口実にした情報商材と判断)
これらは「評価」を試みる時点で広告価値を与えてしまうため、原則として言及しません。個別事例が消費者被害や訴訟に発展した場合は、神話ハンティング側で扱うことがあります。