教科書を実データで疑う
移動平均、ボリンジャーバンド、MACD、RSI、ブレイクアウト、レンジ逆張り。これらは市場参加者が長く知っている古典的な見方です。チャート上では「意識される水準」として機能して見える場面があります。しかし、40年以上公開されている単純なルールに、取引コスト控除後の再現可能な優位性(edge)が残っているとは限りません。
ここでは、教科書のルールを正しい前提として扱いません。「効く気がする」は採用理由になりません。すべてを反証可能な仮説に落とし、実データで検証し、生き残ったものだけを残します。
基本姿勢(6原則)
- すべてのルールを反証可能な仮説に変換する。
- USD/JPY の実データで検証する。
- 取引コスト、スプレッド、時間帯、イベント日、サンプル分割を明示する。
- 勝率ではなく、期待値、ドローダウン、損益分布、頑健性を見る。
- 統計的に弱いもの、条件を後付けしないと残らないものは棄却する。
- 生き残った仮説だけを、運用候補へ戻す。
進め方
検証は「仮説化 → データ固定 → ベースライン作成 → インサンプル検証 → アウトオブサンプル検証 → コスト控除 → 判定」の順で行います。詳しくは検証の方法を参照してください。
とくに重視するのは次の2点です。
- 検証後に都合よく期間を選び直さない(データを先に固定する)。
- 特定年だけの勝ちを edge と呼ばない(期間分割、年別、レジーム別で確認する)。
判定ラベル
| ラベル | 意味 |
|---|---|
| 未検証 | まだ実データで検証していない |
| 検証中 | データ、実装、条件定義のいずれかを作業中 |
| 採用候補 | コスト控除後に edge が残り、アウトオブサンプルでも大きく崩れていない |
| 保留 | 一部条件では有望だが、サンプル不足または頑健性不足 |
| 棄却 | 単純ルールでは edge が確認できない、またはコスト控除後に消える |
| 要再定義 | 仮説が曖昧で、そのままでは検証不能 |
まず読むべきケース
このセクションの姿勢を最もよく表すのが、移動平均線の検証です。最も基本的で、最も広く信じられている指標を、網羅的に検証しました。
結論から言えば、棄却です。
累計 1,515 のグリッド実験を FDR 補正した後、「MA を使うと edge が出る」という主張を支持する統計的証拠は一件も残りませんでした。さらに、「MA を動的サポート/レジスタンスとして使い、タッチ後の反発を狙う」行為には、統計的に有意な“負”の edge()が確認されています。
もう一つのケースは、「個人トレーダーのポジションは逆張り材料になる」という俗説の検証です。国内リテールのネットポジションが将来リターンを予測するかを120実験で調べ、主要8ペアでは棄却、一部のマイナー通貨ペアでのみ弱い偏りが残りました。