ローソク足パターン(Candlestick Patterns)
ローソク足パターンは、単一のローソク足と2〜3本の組み合わせから、反転・継続の候補を読み取る手法です。起源は江戸期の本間宗久による酒田五法にさかのぼり、西洋への紹介は Steve Nison の Japanese Candlestick Charting Techniques(1991)が起点になりました。ローソク足は始値・高値・安値・終値を1本の棒に圧縮したフォーマットで、実体(body)と髭(wick / shadow)の比率、色(陰陽)、直前足との関係から手掛かりを得ます。単体で売買せず、水平線(支持抵抗)や上位足のトレンド方向と組み合わせ、エントリーの「きっかけ」として使うのが実践的です。
前提
OHLCの記号
- = 始値(Open)、 = 高値(High)、 = 安値(Low)、 = 終値(Close)
- 実体(body):。陽線()は白または緑、陰線()は黒または赤で描画するのが慣例
- 上髭(upper wick / upper shadow):
- 下髭(lower wick / lower shadow):
- レンジ(range):
判定式では実体・髭・レンジの比率を使います。絶対 pips ではなく比率で書くことで、時間足や通貨ペアに依存しない定義になります。
分類
| 分類 | 本数 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 単体(single-candle) | 1本 | ローカル反転・迷い・勢いの表現 |
| 2本組み合わせ(two-candle) | 2本 | 反転確認(包み足など)、継続確認(下位足の押し目) |
| 3本組み合わせ(three-candle) | 3本 | 反転確認の強化(三尊・スター系) |
| 酒田五法 | 3〜5本 | 三兵・三山・三川・三空・三法。西洋分類と重複する |
本ページでは実務での出現頻度と、教科書的認識の共通度から、単体・2本・3本の順に扱います。
単体パターン

模式図(理想化した形状)。実際のチャートではノイズを伴う。
マルボーズ(Marubozu)
定義
- 上下の髭がほぼゼロの実体のみのローソク足
- 陽線マルボーズ: かつ
- 陰線マルボーズ: かつ
- 判定閾値:実体 / レンジ を基準にする書籍が多い
意味
- 始値から終値まで一方向で押し戻しがほぼゼロ、つまり強い一方向の圧力
- 陽線マルボーズは買い方の完全支配、陰線マルボーズは売り方の完全支配
- ブレイクアウトの当足、指標発表直後の初動、ストップ狩り後の噴き上げで出やすい
使い方
- 直近レンジのブレイク方向で出現したら、継続シグナルとして評価する
- 上位足のトレンド方向と一致していれば追随する
- 逆方向のマルボーズは「反転の候補」ではなく「既定路線の終了」として警戒側に使う
十字線 / ドージ(Doji)
定義
- 実体がほぼゼロ、または極端に小さい
- 判定閾値:実体 / レンジ 前後
- 陰陽の色は無視する()
種類
| 種類 | 髭の形状 | 意味 |
|---|---|---|
| ノーマルドージ | 上下髭が同程度 | 完全な均衡・迷い |
| ロングレッグドージ | 上下髭が長い | 大きなボラの中で均衡 |
| トンボ(dragonfly) | 下髭が長く、上髭ほぼゼロ | 下値を試して戻す。安値圏で反転候補 |
| トウバ(gravestone) | 上髭が長く、下髭ほぼゼロ | 上値を試して戻す。高値圏で反転候補 |
| 4値同時(four-price) | 髭も実体もほぼゼロ | 極端な低ボラ。深夜・薄商いに出やすい |
使い方
- ドージ単独では売買しない。位置(支持抵抗、直近高値・安値)と、次足の方向で判断する
- トンボが支持線上に、トウバが抵抗線上に出た場合の反転確度は他所より高い
- レンジ相場でのドージは「継続」の意味が強い
ピンバー(Pin Bar)/ ハンマー・シューティングスター
定義(共通)
- 実体が小さく、片方の髭が実体の2〜3倍以上
- 反対側の髭はほぼゼロ、または非常に小さい
| 名称 | 髭の位置 | 出現位置 | 意味 |
|---|---|---|---|
| ハンマー(hammer) | 下髭が長い | 下降トレンドの底 | 買い方の反撃、底打ち候補 |
| ハンギングマン(hanging man) | 下髭が長い | 上昇トレンドの天井 | 上昇疲れ、天井打ち候補 |
| 逆ハンマー(inverted hammer) | 上髭が長い | 下降トレンドの底 | 買い方の初動失敗、底打ち候補 |
| シューティングスター(shooting star) | 上髭が長い | 上昇トレンドの天井 | 売り方の反撃、天井打ち候補 |
判定条件(実務)
- 髭 / 実体 、できれば
- 反対側の髭 / レンジ
- 実体は陰でも陽でも良いが、反転方向側の色(底ハンマーなら陽線、天井シューティングスターなら陰線)が望ましい
- 出現位置の判定:直近 N 本(例 N=10)の高値・安値をブレイクした後、または支持抵抗にタッチした直後
使い方
- 単体で入らず、次足の方向確認を入れる(ハンマーの高値抜けで買い、シューティングスターの安値抜けで売り)
- 損切りは髭の先の外側。実体端ではなく髭端に置くのが原型
- USD/JPY 1H 以上での出現は日足でも視認される可能性があり、上位足の反応が乗りやすい
コマ(Spinning Top)
定義
- 実体が小さく(実体 / レンジ が 0.1〜0.3 程度)、上下髭が同程度
- ドージほど極端ではない「小さな迷い」
意味
- レンジ相場での典型的なノイズ足
- トレンド末端に連続すると、勢いの鈍化を示す
- 単独では売買材料にならない。連続出現・出現位置でフィルタする
2本組み合わせ

模式図(理想化した形状)。色は陰陽の関係を示す。
包み足(Engulfing)
定義
- 前足 の実体を、当足 の実体が完全に包む
- 強気包み足(bullish engulfing):前足が陰線、当足が陽線、当足始値 前足終値、当足終値 前足始値
- 弱気包み足(bearish engulfing):前足が陽線、当足が陰線、当足始値 前足終値、当足終値 前足始値
厳密条件
- 髭も含めて包むか、実体のみ包むかで流派が分かれる。原典(Nison)は「実体のみ」を基本にする
- 実体比(当足実体 / 前足実体)が大きいほど信頼度が高いとされる
使い方
- 下降トレンド末端の強気包み足、上昇トレンド末端の弱気包み足が原型
- 損切りは包んだ側のローソク足の反対側の髭先
- レンジ内の包み足は反転より「逆方向への叩き」として弱い
はらみ足(Harami)
定義
- 前足 の実体の内側に、当足 の実体が収まる(包み足の逆)
- 強気はらみ(bullish harami):前足が長い陰線、当足が小さな陽線(実体が前足内)
- 弱気はらみ(bearish harami):前足が長い陽線、当足が小さな陰線(実体が前足内)
意味
- 語源は日本語「孕み」。母親(前足)の中に胎児(当足)がいる形
- 強いトレンドの後の「勢いの停止」。反転の初期兆候
- 包み足より反転の確度は低い。次足での確認が必須
種類
- はらみ寄せ:当足がドージ(十字線)。反転候補として包み足に近い扱いをする流派もある
つつみ足の変形:ピアシング / ダーククラウド
強気:ピアシングライン(Piercing Line)
- 前足:長い陰線
- 当足:前足の下ヒゲ付近から始まる陽線、当足終値が前足実体の中央より上で終わる
- 包み足まで行かない「半包み」
弱気:ダーククラウドカバー(Dark Cloud Cover)
- 前足:長い陽線
- 当足:前足の高値付近から始まる陰線、当足終値が前足実体の中央より下で終わる
- 弱気版のピアシング
判定
- 当足終値が前足実体の 50% を越える深さで、初めて有効
- 越えなければ「弱い試み」として無視する
かぶせ / さし込み / 入り首 / 切り込み(日本古典分類)
酒田五法系の細分類です。西洋のチャートパターン教科書では扱いが薄く、要点は「前足の実体にどこまで食い込んだか」にあります。
| 名称 | 前足 | 当足 | 食い込み深さ |
|---|---|---|---|
| 切り込み | 陰線 | 陽線 | 前足終値付近まで |
| 入り首 | 陰線 | 陽線 | 前足終値のわずか上 |
| さし込み | 陰線 | 陽線 | 前足終値のわずか下 |
| かぶせ | 陽線 | 陰線 | 前足終値付近まで |
USD/JPY 実運用では、ピアシング / ダーククラウドの粒度で十分です。切り込み・入り首・さし込みは同一カテゴリの深さ違いとして扱います。
毛抜き(Tweezer)
定義
- 2本の高値または安値がほぼ一致する
- 毛抜き天井(tweezer top):2本の高値がほぼ同値。抵抗線での2度の失敗
- 毛抜き底(tweezer bottom):2本の安値がほぼ同値。支持線での2度の反発
判定
- 高値差 / 平均レンジ 程度
- 2本目の実体が反転方向(毛抜き天井なら陰線、毛抜き底なら陽線)が望ましい
使い方
- 単体では弱い。水平線と重なると価値が上がる
- 4H・日足で出現した毛抜きは、上位足の水平線として作用しやすい
3本組み合わせ

模式図(理想化した形状)。
明けの明星 / 宵の明星(Morning Star / Evening Star)
明けの明星(bullish、下値圏反転)
- 1本目:長い陰線
- 2本目:小さな実体(陰陽問わず)、前足と3本目との間にギャップ(窓)があると原型
- 3本目:長い陽線、1本目の実体中央より上で終わる
宵の明星(bearish、上値圏反転)
- 1本目:長い陽線
- 2本目:小さな実体
- 3本目:長い陰線、1本目の実体中央より下で終わる
変形
- モーニング / イブニングドージスター:2本目がドージ(実体ほぼゼロ)。反転確度がやや高いとされる
- アバンドンド・ベビー(abandoned baby):2本目が1本目と3本目の両方から完全にギャップアウトしたドージ。極めて稀
判定の実務
- FX スポットは24時間連続で、真の窓(gap)はほぼ月曜開始と週明けギャップ以外に出ない。株式でのモーニングスターの厳密定義をそのまま FX に当てはめると、パターンが検出されない
- FX では「2本目が1・3本目の実体端を切り込まない」を代替条件にする流派が多い
三兵(Three White Soldiers / Three Black Crows)
赤三兵(three white soldiers、bullish continuation / reversal)
- 3本連続の陽線
- 各足の始値が前足の実体内、終値が前足の終値より上
- 上髭が短い
黒三兵(three black crows、bearish)
- 3本連続の陰線
- 各足の始値が前足の実体内、終値が前足の終値より下
- 下髭が短い
意味
- 低値圏で赤三兵が出れば、トレンド転換の可能性
- 高値圏で赤三兵が出れば、過熱の警告(追随買いすると天井掴み)
- 黒三兵は逆の対称
変形(酒田五法)
- 先詰まり赤三兵:3本目が長い上髭を持つ、つまり上昇疲れ
- 坊主三兵:髭がほぼゼロの純粋な三兵、つまり最強の継続
三尊 / 逆三尊はチャートパターン側で扱う
三尊天井(head and shoulders top)と逆三尊は5本以上に及ぶため、チャートパターンのページで扱います。ローソク足パターンとの境界は「3本以内で完結するか」にあります。
USD/JPY での使いどころ
- 東京仲値(JST 09:55)前後:実需フローで一方向に伸びる。仲値後の15分足で出現する反転パターン(トンボドージ、ハンマー、包み足)は「戻し狙い」として使える
- 東京午前のレンジ:5〜15分足のコマ・ドージが多発する。単体で売買しない。直近のセッション高値・安値との位置関係で判断する
- ロンドンオープン(JST 16:00):ブレイクの初動でマルボーズが出やすい。ブレイク方向の追随、逆方向のマルボーズはブレイク失敗の兆候
- NYオープン(JST 22:30):米指標・米金利で高ボラ。長い髭のピンバー、大きな包み足が1H足で出やすい。損切り幅が広くなるため、Kelly を下げる
- 1H・4H の反転パターン:上位足の水平線タッチ、フィボナッチ節目、Pivot 水準と重ねる。単体では入らない
- 日足の反転パターン:週次のスイング判断に使う。日足の包み足・宵の明星は4H・1H のトレンド全体を書き換えるため、下位足のシグナル解釈の「前提」として使う
落とし穴
- 単体で入らない:どのパターンも「位置」(支持抵抗、上位足トレンド)が最優先。パターンだけを根拠にすると勝率は base rate 付近に留まる
- 主観的判定を許容しない:「実体大きめ」「髭長め」は数値化しないと再現できない。バックテストするなら実体 / レンジ比、髭 / 実体比の閾値を先に固定する
- FX の窓埋め概念を機械適用しない:FX スポットは月曜以外に真の窓がほぼない。株式教科書のギャップ前提のパターン(アバンドンドベビー等)をそのまま持ち込まない
- 時間足を混ぜない:5分足の包み足と日足の包み足は別物。1つの判断に複数時間足を混ぜるなら、上位足を「環境」、下位足を「トリガー」として役割分担する
- 終値確定前に判定しない:5分足の途中で「ハンマーが出そう」は判定対象外。確定終値のみで判定する
- 過剰最適化(実体閾値の細かい調整)を避ける:0.05 と 0.07 のどちらが良いかは、たいてい過学習。0.05 / 0.10 のような大まかな段階でロバスト性を確認する
- 陰陽逆転の変形を無理に暗記しない:反転パターンは「前足の勢いに逆らう実体が出た」が本質。名前を暗記しても、市場での視認能力は上がらない
- 統計的 edge を仮定しない:ローソク足パターン単体の有意な edge は、過去研究では確認されていない。Bulkowski らの検証は一部でエッジを示唆するが、FDR 補正後は生存が限定的だった。検証フレームで別途扱う対象
Python 実装スケッチ
代表的な単体・2本パターンの検出関数です。閾値は引数で調整可能にし、時間足・通貨ペアで再調整する前提にします。
import pandas as pdimport numpy as np
def _body(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: return (df["close"] - df["open"]).abs()
def _range(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: return df["high"] - df["low"]
def _upper_wick(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: return df["high"] - df[["open", "close"]].max(axis=1)
def _lower_wick(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: return df[["open", "close"]].min(axis=1) - df["low"]
def is_marubozu(df: pd.DataFrame, body_ratio: float = 0.95) -> pd.Series: return _body(df) / _range(df) >= body_ratio
def is_doji(df: pd.DataFrame, body_ratio: float = 0.05) -> pd.Series: return _body(df) / _range(df) <= body_ratio
def is_hammer(df: pd.DataFrame, wick_body: float = 2.0, upper_ratio: float = 0.1) -> pd.Series: body = _body(df) lower = _lower_wick(df) upper = _upper_wick(df) rng = _range(df)
long_lower = lower / body.replace(0, np.nan) >= wick_body small_upper = upper / rng <= upper_ratio
return long_lower & small_upper
def is_shooting_star(df: pd.DataFrame, wick_body: float = 2.0, lower_ratio: float = 0.1) -> pd.Series: body = _body(df) upper = _upper_wick(df) lower = _lower_wick(df) rng = _range(df)
long_upper = upper / body.replace(0, np.nan) >= wick_body small_lower = lower / rng <= lower_ratio
return long_upper & small_lower
def is_bullish_engulfing(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: prev = df.shift(1)
prev_bear = prev["close"] < prev["open"] curr_bull = df["close"] > df["open"]
engulf_open = df["open"] <= prev["close"] engulf_close = df["close"] >= prev["open"]
return prev_bear & curr_bull & engulf_open & engulf_close
def is_bearish_engulfing(df: pd.DataFrame) -> pd.Series: prev = df.shift(1)
prev_bull = prev["close"] > prev["open"] curr_bear = df["close"] < df["open"]
engulf_open = df["open"] >= prev["close"] engulf_close = df["close"] <= prev["open"]
return prev_bull & curr_bear & engulf_open & engulf_closedfはopen,high,low,closeの4列を持つ DataFrame_body / _range / _upper_wick / _lower_wickは補助関数で全パターンから使う- ハンマー・シューティングスターは実体ゼロ(
_body == 0)をnp.nan経由で無害化する - 包み足は Nison 原典に沿って「実体のみで包む」条件。髭込みで包む厳格版は
df["high"] >= prev["high"]などを追加する - 検出後は「出現位置」(直近 N 本の高値・安値、支持抵抗との距離)のフィルタを別途重ねる。パターン検出だけでは売買しない
関連する水準の考え方は支持線・抵抗線を参照してください。
参考
- Steve Nison, Japanese Candlestick Charting Techniques, New York Institute of Finance, 1991. https://archive.org/details/japanesecandlest0000niso
- Steve Nison, Beyond Candlesticks, John Wiley & Sons, 1994
- 本間宗久(Homma Munehisa)由来の酒田五法。一次資料は失われており、林輝太郎などの近代的整理を参照
- Thomas N. Bulkowski, Encyclopedia of Candlestick Charts, John Wiley & Sons, 2008. https://thepatternsite.com/CS.html
- John J. Murphy, Technical Analysis of the Financial Markets, ch. 12 (Japanese Candlesticks)