ピボットポイント(Pivot Points)
ピボットポイントは、前日の高値・安値・終値(および始値や変形)から算出する水平の支持抵抗群です。Classic / Fibonacci / Camarilla / Woodie / DeMark、Mid-Pivots、Central Pivot Range(CPR)、Daily/Weekly/Monthly の階層まで、いずれも「前日データを固定的に加工した水準」という共通思想を持ちます。当日のトレーダーが同じ計算式で同じ水準を意識するため、自己成就的に機能する側面があります。
使いどころは、当日の値幅上限・下限の目安、指標発表時に反応が止まりやすい水準の把握、レンジの逆張り水準、ブレイクアウトの目標水準です。FX スポットは 24 時間市場のため、「日」の定義(NY Close 基準が標準)が水準へ直接影響します。
起源は 1930-40 年代のシカゴ商品取引所の立会人(floor trader)が翌日の取引前に手計算していた水平線群です。基本形の Classic は Neal T. Weintraub Trading with Chart Patterns(1990 年代)が広く紹介し、Larry Williams が Woodie 系、Tom DeMark が条件分岐型、Nick Scott が 1989 年に Camarilla、Frank Ochoa が 2010 年に CPR を発表しました。
起源と系譜
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 1930s-40s | シカゴ商品取引所(CBOT)等の floor trader が手計算で使用開始 |
| 1957 | Richard Donchian の Trend-Following 論文で類似の水平線概念 |
| 1978 | J. Welles Wilder Jr. がテクニカル書籍で central price として言及 |
| 1980s | Larry Williams が Woodie 系を体系化(Classic に始値を加味) |
| 1989 | Nick Scott が Camarilla Equation 発表(前日終値基準) |
| 1990s | Tom DeMark が The New Science of Technical Analysis(1994)で条件分岐型(DeMark Pivots) |
| 1990s-2000s | Neal T. Weintraub, John L. Person らが Classic + Fibonacci を一般化 |
| 2010 | Frank Ochoa Secrets of a Pivot Boss で CPR(Central Pivot Range)を発表 |
前提
計算に使う変数
- 前日高値(Previous High):
- 前日安値(Previous Low):
- 前日終値(Previous Close):
- 前日始値(Previous Open):(Woodie / DeMark で使用)
- 当日始値(Today’s Open):(Woodie の一部変形で使用)
記号の慣例
- P:Pivot(中心線)
- R1, R2, R3, R4:Resistance(上方水準、番号が大きいほど遠い)
- S1, S2, S3, S4:Support(下方水準、番号が大きいほど遠い)
- M0-M5:Mid-Pivot(中間水準)
- BC / TC:Bottom Central / Top Central(CPR の帯の下端・上端)
Classic(Standard / Traditional)Pivot Points
定義
最も普及した形式です。前日 H/L/C から中心線と 3 段の R/S を算出します。

模式図。前日データから算出した水平線群を、当日の目安に使う。
幾何学的意味
- は前日 3 値(H/L/C)の平均。当日の均衡点の目安になる
- は「 を中心に を対称へ写した点」で、前日安値を平均で反射している
- は前日のフルレンジぶんを より上へ伸ばした点
- は前日高値からさらに 伸ばす形
Mid-Pivots(中間水準)
R1〜R2、S1〜S2 などの中間に M 水準を挟む流派があります(John L. Person)。
Mid-Pivots は反発の初期水準として意識されます。R1 に直接到達する前に M3 で失速するケースが多いとされます。
Fibonacci Pivot Points
定義
前日レンジ にフィボナッチ比率を掛けて に加減します。
拡張版(R4/S4 を持つ流派)は次のとおりです。
Classic との違い
- Classic の R1/S1 は前日 / の による対称反射
- Fibonacci の R1/S1 は前日レンジの 38.2%
- レンジが狭い日は Fibonacci が狭く、広い日は Fibonacci が広くなる。Classic はレンジ形状に対して同じスケールを保つ
Camarilla Pivot Points
定義
Nick Scott(1989)が発表しました。前日終値 を基準に、前日レンジ を除算係数でスケーリングします。
実務での分類
Camarilla は水準ごとに明確な役割分担があります。
| 水準 | 役割 | 戦術 |
|---|---|---|
| R1/S1, R2/S2 | 当日の普通の値動き内 | 通常はシグナルとして使わない |
| R3/S3 | 反転狙い水準 | 逆張りエントリー、損切りは R4/S4 |
| R4/S4 | ブレイクアウト水準 | 順張りエントリー、次の目標は R5/S5() |
Camarilla は「R3 / S3 で逆張り、R4 / S4 でブレイク」という双方向戦術がセットで語られます。
係数 1.1 の由来
- 1.1 という係数は Scott の経験則とされ、統計的導出は公開されていない
- 除算係数(12, 6, 4, 2)は等比数列的な半減。R1 から R4 で幅が 6 倍になる
- 一部の派生流派は 1.1 を 1.0 や 1.5 に変えることもあるが、原典は 1.1
Woodie’s Pivot Points
定義
Ken Wood(通称 Woodie)が体系化しました。前日終値 の代わりに当日始値 を使う変形です。
Classic との違い
- Pivot の計算で、前日終値 ではなく当日始値 を 2 倍重みで使用する
- 当日の始値方向を反映する分、当日の実際の値動きに近い水準になる
- ただし当日始値が確定するまで が定まらない。始値後に一度算出する必要がある
FX スポットは 24 時間連続で、当日始値の定義が業者で異なります。Woodie を FX に適用する場合、NY Close 5pm を境に始まる当日の始値を採用するのが一般的です。
DeMark Pivot Points
定義
Tom DeMark The New Science of Technical Analysis(1994)による形式です。前日の陰陽( と の関係)で計算式が分岐する条件分岐型です。
Step 1:X を計算
- 前日 陽線():
- 前日 陰線():
- 前日 同値():
Step 2:Pivot, R1, S1
DeMark は R2/S2/R3/S3 を持たず、R1/S1 のみです。
特徴
- 前日の始値 vs 終値の関係を条件分岐に組み込む唯一の主流 Pivot
- 陽線・陰線で本命方向が違うという DeMark の思想
- Pivot 水準は 1 段のみで、R1/S1 が当日の推定高安になる
用途としては、R1 を当日高値予測、S1 を当日安値予測として使います。当日高値がすでに R1 に到達した場合、当日の伸び余地は乏しいと判定します。
Central Pivot Range(CPR)
定義
Frank Ochoa Secrets of a Pivot Boss(2010)で提唱されました。Pivot を単一の線ではなく帯として扱います。
- BC(Bottom Central):Pivot の下側の境界。前日高安の中点
- TC(Top Central):Pivot の上側の境界。 の対称反射
- P は帯の内部(TC と BC の間)
CPR 幅の解釈
CPR の帯幅()は、当日の想定ボラティリティのプロキシとして使います。
| 帯幅 | 意味 | 戦術 |
|---|---|---|
| Narrow CPR(幅が狭い) | ボラ拡大の予兆 | ブレイクアウト戦術 |
| Wide CPR(幅が広い) | レンジ相場の予兆 | レンジ内逆張り戦術 |
判定の目安は次のとおりです。
- CPR 幅を過去 5-10 日の平均帯幅と比較する
- 平均の 50% 以下なら Narrow、150% 以上なら Wide
連続日 CPR の重なり
- 前日 CPR と当日 CPR が重なるなら、レンジ相場継続
- 前日 CPR より当日 CPR が上に離れるなら、上昇トレンド
- 前日 CPR より当日 CPR が下に離れるなら、下降トレンド
Frank Ochoa はこれを Two-Day Overlapping / Higher / Lower Value と呼びます。
時間軸別 Pivot(Daily / Weekly / Monthly / Yearly)
概念
同じ Classic Pivot の公式を、より長い期間の H/L/C に適用することで、より重要な水準を得ます。
| 時間軸 | 基準データ | 更新頻度 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Daily | 前日 H/L/C | 毎日 | デイトレの当日水準 |
| Weekly | 前週 H/L/C | 週次(月曜開始) | スイングの当週水準 |
| Monthly | 前月 H/L/C | 月次(月初) | 中期ポジションの当月水準 |
| Yearly | 前年 H/L/C | 年次(1 月) | 長期ポジションの当年水準 |
計算式は同じ
各時間軸の Pivot が同一水準に近接した場合、その水準は複数時間軸のトレーダーが同時に意識する強力な水準になります(confluence)。
実例
- Daily Pivot P と Weekly S1 が近接すれば押し目候補
- Weekly Pivot P と Monthly R1 が近接すれば抵抗候補
- Monthly R2 と Yearly Pivot が重なれば中期的なターゲット / 反転候補
時刻基準(Cut-off)の問題
FX における「日」の定義
FX スポットは 24 時間連続市場で、1 日の切り替わりが慣習で決まります。
| 基準 | JST | 特徴 |
|---|---|---|
| NY Close(5pm ET) | JST 06:00(夏)/ 07:00(冬) | 最も一般的、CME 慣習に一致 |
| London Close(5pm BST/GMT) | JST 01:00(夏)/ 02:00(冬) | 欧州参加者中心 |
| 東京 Close(3pm JST) | JST 15:00 | 日本の日経先物と連動 |
| Sydney Open(7am AEDT) | JST 05:00(夏) | 実質 NY Close と近い |
業者間の差異
- 主要 MT4/MT5 業者の多くは NY 17:00 EST(GMT-5) を基準に日足バーを構築する
- ただし業者のサーバータイムゾーンで微妙にずれる(GMT+2, +3 など)
- 同じ USD/JPY でも業者によって表示される Pivot 水準が数 pips 異なるケースが典型
実務での対処
- 使用プラットフォームの日足バー切り替わり時刻を明示的に確認する
- 主要業者の 5pm NY 基準に統一する
- 週足の月曜開始も業者で日本時間月曜 6:00 か月曜 0:00 UTC かで差がある
USD/JPY での使いどころ
東京仲値(JST 09:55)前後
- 東京仲値の急伸で Classic R1 手前で失速するのが典型
- 仲値後の反落は Daily P(中心線)付近で下げ止まりやすい
- Camarilla S3 まで届く日は、ロンドン以降の下落継続の警告
ロンドンオープン(JST 16:00)
- 東京レンジ(Daily H/L)を Pivot と重ねると、S1/R1 とほぼ一致する日が多い
- ロンドン初動のブレイクは Pivot R1/S1 の突破が最初の確認水準
- Weekly Pivot が Daily R2 と近接している場合、週の中盤の反転候補になる
NY オープン(JST 22:30)
- 米指標発表で Daily R3/S3 まで一気に到達することがある
- Camarilla R4/S4 は指標時の本気ブレイク水準として使える
- 逆張りは Camarilla R3/S3、順張りは R4/S4 の分岐点
週次・月次の Pivot
- Weekly Pivot P はその週の中心水準として、月曜〜金曜の一貫した反発水準になりやすい
- Monthly Pivot は月次スイングの起点。特に月初に大きく離れると、月の中盤で戻される傾向がある
- Yearly Pivot は数年に 1 度の大局的反転候補(2022 年 USD/JPY 152 円局面など)
落とし穴
- 時刻基準を混ぜない:使う Pivot の「日」定義を統一する。NY 5pm 基準と JST 0 時基準を混ぜると水準が毎日ずれる
- 系統を混同しない:Classic の R1 と Fibonacci の R1 は別水準。表示している系統を明示する
- Camarilla の R3/S3 = 逆張り、R4/S4 = 順張りの使い分けを忘れない:同じ Camarilla でも R3 到達と R4 到達は正反対の戦術になる
- Woodie の当日始値問題:24 時間 FX では当日始値が業者依存。Woodie を厳密適用するなら業者基準を固定する
- DeMark を他 Pivot と混ぜない:DeMark は R1/S1 のみで、R2/S2 が無いため水準の並びが違う
- 時間軸を混ぜて重なった水準を過信しない:Daily / Weekly / Monthly の confluence は強力だが、そもそも異なるスケールの参照点。近接だけで反転を確信しない
- Pivot の絶対視:Pivot は前日データから計算した目安。当日の環境(指標・ヘッドライン)で無効化される
- ヒゲでのタッチと終値ベース:R1 に到達(髭タッチ)しても終値では戻る動きは反発と数える。ただしヒゲタッチだけでエントリーすると騙しに刺さる
- CPR の Wide / Narrow 判定を主観で決めない:CPR 幅の閾値(平均比 50%/150% 等)は事前に固定してから判定する
- 統計的 edge を仮定しない:Pivot 水準の有意性は複数の学術検証が存在するが、FDR 補正後の生存は限定的
- 表示チャートによって同じ Pivot が違う:TradingView, MT4, cTrader, MyfxBook で計算方法と時刻基準が微妙に違うことがある。使うチャートを固定する
- 短期足での Daily Pivot は 1 日の中で 6-8 時間しか効かない:24 時間 FX で JST の日中と夜中では意識するプレイヤー層が違う。時間帯フィルタと組み合わせる
近い水準どうしの重なりや、複数の水準が集まる帯の扱いは 水平線・サポートとレジスタンス も合わせて参照してください。
Python 実装スケッチ
各系統の Pivot 計算関数です。
import pandas as pdimport numpy as np
def classic_pivots(h: float, l: float, c: float) -> dict: p = (h + l + c) / 3.0 return { "P": p, "R1": 2 * p - l, "S1": 2 * p - h, "R2": p + (h - l), "S2": p - (h - l), "R3": h + 2 * (p - l), "S3": l - 2 * (h - p), }
def fibonacci_pivots(h: float, l: float, c: float) -> dict: p = (h + l + c) / 3.0 rng = h - l return { "P": p, "R1": p + 0.382 * rng, "S1": p - 0.382 * rng, "R2": p + 0.618 * rng, "S2": p - 0.618 * rng, "R3": p + 1.000 * rng, "S3": p - 1.000 * rng, }
def camarilla_pivots(h: float, l: float, c: float) -> dict: rng = h - l return { "R1": c + rng * 1.1 / 12, "S1": c - rng * 1.1 / 12, "R2": c + rng * 1.1 / 6, "S2": c - rng * 1.1 / 6, "R3": c + rng * 1.1 / 4, "S3": c - rng * 1.1 / 4, "R4": c + rng * 1.1 / 2, "S4": c - rng * 1.1 / 2, }
def woodie_pivots(h: float, l: float, today_open: float) -> dict: p = (h + l + 2 * today_open) / 4.0 return { "P": p, "R1": 2 * p - l, "S1": 2 * p - h, "R2": p + (h - l), "S2": p - (h - l), "R3": h + 2 * (p - l), "S3": l - 2 * (h - p), }
def demark_pivots(o: float, h: float, l: float, c: float) -> dict: if c > o: x = 2 * h + l + c elif c < o: x = h + 2 * l + c else: x = h + l + 2 * c
return { "P": x / 4.0, "R1": x / 2.0 - l, "S1": x / 2.0 - h, }
def cpr(h: float, l: float, c: float) -> dict: p = (h + l + c) / 3.0 bc = (h + l) / 2.0 tc = 2 * p - bc return {"P": p, "BC": bc, "TC": tc, "width": abs(tc - bc)}
def mid_pivots(pivots: dict) -> dict: p = pivots["P"] r1, r2, r3 = pivots["R1"], pivots["R2"], pivots["R3"] s1, s2, s3 = pivots["S1"], pivots["S2"], pivots["S3"] return { "M5": (r2 + r3) / 2.0, "M4": (r1 + r2) / 2.0, "M3": (p + r1) / 2.0, "M2": (p + s1) / 2.0, "M1": (s1 + s2) / 2.0, "M0": (s2 + s3) / 2.0, }時間軸別 Pivot を DataFrame で
def daily_pivots_series(df_daily: pd.DataFrame) -> pd.DataFrame: prev = df_daily.shift(1) p = (prev["high"] + prev["low"] + prev["close"]) / 3.0 rng = prev["high"] - prev["low"] return pd.DataFrame({ "P": p, "R1": 2 * p - prev["low"], "S1": 2 * p - prev["high"], "R2": p + rng, "S2": p - rng, "R3": prev["high"] + 2 * (p - prev["low"]), "S3": prev["low"] - 2 * (prev["high"] - p), })
def weekly_pivots_series(df_daily: pd.DataFrame) -> pd.DataFrame: weekly = df_daily.resample("W-MON", label="left", closed="left").agg({ "open": "first", "high": "max", "low": "min", "close": "last", }) return daily_pivots_series(weekly)
def monthly_pivots_series(df_daily: pd.DataFrame) -> pd.DataFrame: monthly = df_daily.resample("MS").agg({ "open": "first", "high": "max", "low": "min", "close": "last", }) return daily_pivots_series(monthly)下位足への紐付け
def align_pivots_to_intraday(pivots_daily: pd.DataFrame, df_intraday: pd.DataFrame) -> pd.DataFrame: daily_dates = pivots_daily.index.normalize() pivots_indexed = pivots_daily.copy() pivots_indexed.index = daily_dates
intraday_dates = df_intraday.index.normalize() aligned = pivots_indexed.reindex(intraday_dates, method="ffill") aligned.index = df_intraday.index return aligneddaily_pivots_seriesは日足 DataFrame から日毎の Pivot 群を生成する。.shift(1)で必ず前日以前のデータを参照する(look-ahead 防止)weekly_pivots_seriesは日足を週次にリサンプリングする。W-MONは月曜開始monthly_pivots_seriesは月次リサンプリングする。MSは Month Startalign_pivots_to_intradayは日次 Pivot を分足など下位足に紐付ける。日付でのマージとffill- 業者や国によって週の開始曜日が違う場合、
W-MONをW-SUNに変更する
参考
- Neal T. Weintraub, Trading with Chart Patterns, McGraw-Hill, 1995
- Nick Scott, “Camarilla Equation”(1989, unpublished paper) — Camarilla の原型
- Tom DeMark, The New Science of Technical Analysis, Wiley, 1994
- John L. Person, A Complete Guide to Technical Trading Tactics, Wiley, 2004 — Fibonacci Pivot と Mid-Pivots
- Frank O. Ochoa, Secrets of a Pivot Boss, PivotBoss, 2010 — CPR の原典
- Mark B. Fisher, The Logical Trader, Wiley, 2002 — ACD Method(Pivot 派生)
- StockCharts — “Pivot Points” https://school.stockcharts.com/doku.php?id=technical_indicators:pivot_points
- Investopedia — “Pivot Points” https://www.investopedia.com/terms/p/pivotpoint.asp
- Investopedia — “Central Pivot Range (CPR)” https://www.investopedia.com/terms/c/central-pivot-range-cpr.asp